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国際社会や正義に対する卑劣な脅しだ。
ウクライナ侵略にからんで、プーチン露大統領らに逮捕状を発付した国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子裁判官をロシア内務省が指名手配した。
ICCは国連加盟国の6割にあたる123カ国・地域が加盟する。ロシアは未加盟とはいえ、プーチン氏への逮捕状発付は、複数の専門家が法と証拠と正義に照らして下した重要な決定だ。それを無視し、ほごにするような、赤根氏への指名手配は到底容認できるものではない。ロシアはただちに撤回すべきである。
ICCの逮捕状発付はプーチン氏の首脳外交に確実に影響を及ぼしている。
南アフリカで今月開かれる新興5カ国(BRICS)首脳会議をめぐり、プーチン氏は当初、南アを訪問する予定だったが、ICC加盟国でもある南アが欠席を働きかけ、ラブロフ外相の代理出席が決まった。
プーチン氏の威信低下を象徴する一件ともいえる。
南アは、2015年にICCの逮捕状が出ていたスーダンのバシル大統領(当時)が入国した際、拘束せずに国際的な批判を浴びた。
今回、プーチン氏を拘束しなければ、前回以上の批判にさらされるのは必至だった。
7月下旬にロシア国内で行われたアフリカ諸国首脳らとの国際会議も、出席者が4年前の半数以下に激減するなど不振に終わっている。
ICCは今年3月17日、ウクライナからの子供連れ去りに関与した疑いがあるとして戦争犯罪容疑でプーチン氏らに逮捕状を出した。この直後、露連邦捜査委員会は「逮捕状は違法だ」としてICCのカーン主任検察官や赤根氏ら4人に対する捜査開始を発表、5月にはカーン氏らを本人不在のまま起訴し、指名手配していた。
赤根氏は検察官出身で函館地検検事正や国連アジア極東犯罪防止研修所所長などを務め、2018年からICC裁判官を務めている。
松野博一官房長官は赤根氏への指名手配について「ICCとも連携し、適切に対処する」と述べた。日本政府は国際社会と協力し、赤根氏らがロシアによる不当な連れ去りや身柄拘束など不測の事態に見舞われぬよう保護していくべきである。
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2023年8月2日付産経新聞【主張】を転載しています